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自動車の暖房システムの全貌:快適な車内空間を支える技術

エンジンの熱から最新技術まで、多様なヒーターの仕組みを徹底解説

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主なポイント

  • 内燃機関車の主流はエンジンの排熱利用: ガソリン車などの多くの自動車では、エンジン冷却水の熱を再利用して暖房を作り出しています。これは非常に効率的なシステムです。
  • 電動車の新たな挑戦と進化: 電気自動車やプラグインハイブリッド車ではエンジンの熱が利用できないため、PTCヒーターやヒートポンプなどの電気エネルギーを利用した暖房システムが開発・採用されています。
  • 多様化する補助・独立暖房システム: 車中泊など特定の用途向けに、FFヒーターや電気ヒーターなど、車両本来の暖房システムとは異なる独立したヒーターも存在します。

自動車暖房の基礎:エンジンの熱を再利用する仕組み

自動車の暖房システムは、快適な車内空間を保つために不可欠な機能です。特に寒冷時には、車内の温度を適切に保つことでドライバーと同乗者の快適性や安全性を確保します。多くの内燃機関を搭載した自動車、例えばガソリン車やディーゼル車では、エンジンの稼働によって発生する熱を暖房に利用しています。

エンジンは燃料を燃焼させる際に大量の熱を発生させますが、この熱の約30%は冷却水(ラジエーター液、LLCとも呼ばれます)によって回収されます。この冷却水はエンジンの温度が上がりすぎるのを防ぐために循環しており、その温度は100℃近くにも達することがあります。自動車の暖房システムは、この「捨てるはずだった」エンジンの熱を有効活用しているため、エネルギー効率が非常に高いと言えます。

具体的には、暖かくなった冷却水がヒーターコアと呼ばれる部品に循環します。ヒーターコアは車室内に設置されており、小さなラジエーターのような構造をしています。熱伝導性の高いアルミニウムや真鍮で作られたチューブの中を冷却水が流れ、その周りには多数のフィンが取り付けられています。このフィンがあることで表面積が増え、効率的に熱交換が行われます。

車両の換気システムの一部であるブロワーファンが、このヒーターコアに風を送ります。ヒーターコアを通過する際に、冷たい外気や内気は冷却水から熱を奪って温められ、温風となって車内に送り出されます。かつては走行風を利用する手動式のヒーターも存在しましたが、現在ではブロワーファンによる送風が一般的です。

暖房の温度調節は、ヒーターコアに流れる冷却水の量を調整したり、ヒーターコアを通過する空気の量をシャッターで制御したりすることで行われます。これらの仕組みを組み合わせることで、 desired temperature を実現しています。

車載ファンヒーターの画像

画像:一般的な車載ファンヒーターの例。シガーソケットから給電されるタイプが多いです。


電動化時代の暖房技術:PTCヒーターとヒートポンプ

プラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)のように、エンジンが長時間停止したり、そもそもエンジンを搭載していない車両では、上記のようなエンジンの排熱を利用する暖房システムがそのままでは利用できません。これらの車両では、電気エネルギーを利用した新たな暖房システムが必要となります。主に採用されているのは、PTCヒーターとヒートポンプの2種類です。

PTCヒーター

PTCヒーターは、Positive Temperature Coefficient(正の温度係数)サーミスタと呼ばれる特性を持つセラミックスを利用したヒーターです。これは、温度が上昇すると電気抵抗が増加するという性質を持っており、これにより自己温度制御を行うことができます。バッテリーから供給される電気をPTC素子に通すことで熱を発生させ、その熱を利用して空気を温め、車内に送り出します。

PTCヒーターの利点は、比較的構造が単純で、立ち上がりが早くすぐに暖かい風が出てくることです。しかし、その一方で消費電力が大きいという欠点があります。電気自動車の場合、暖房に多くの電力を消費すると航続距離が短くなるという問題が生じます。

ヒートポンプ

ヒートポンプは、家庭用エアコンの暖房機能と同様の仕組みです。冷媒( refrigerant )を利用して外気から熱を吸収し、その熱を圧縮機でさらに温度を上げて車内に放出することで暖房を行います。冷房時とは逆のサイクルで冷媒を循環させることで暖房を実現します。

ヒートポンプの最大の利点は、消費電力がPTCヒーターに比べて少ないことです。外気から熱を「汲み上げる」ため、投入した電気エネルギー以上の熱エネルギーを得ることができます( high coefficient of performance - COP)。これにより、電気自動車の航続距離への影響を抑えることが可能です。

ただし、ヒートポンプは外気温が極端に低い場合など、外気からの熱の吸収が難しくなると暖房能力が低下するという課題があります。このため、寒冷地向けの車両では、ヒートポンプとPTCヒーターを組み合わせて使用するなど、補完的なシステムが採用されることもあります。最近のヒートポンプシステムは技術が向上しており、氷点下の環境でも効果的な暖房が可能になってきています。

動画:三菱のPHEV・EVに搭載されている暖房システムの違いを紹介する動画。PTCヒーターとヒートポンプについて解説されています。


その他の暖房システムと補助ヒーター

自動車の主要な暖房システム以外にも、特定の目的のために使用されるヒーターや、アフターマーケットで追加される補助的なヒーターが存在します。

燃焼式ヒーター(FFヒーター)

燃焼式ヒーター、特にFFヒーター(Forced Flue system Heater)は、車両の燃料(ガソリンや軽油)を燃焼させて熱を発生させ、その熱を利用して車内を暖める独立した暖房システムです。これは主にキャンピングカーや車中泊を頻繁に行う車両、あるいは寒冷地で使用される車両に搭載されます。

FFヒーターの利点は、エンジンの状態に関わらず強力な暖房能力を発揮できることと、比較的少ない燃料で長時間稼働できることです。燃焼によって発生する排ガスは車外に排出されるため、正しく設置・使用すれば安全に利用できます。空気加熱式と水加熱式があり、空気加熱式は直接温風を車内に送り込み、水加熱式は冷却水を温めて車両本来のヒーターコアを介して暖房を行います。

電気ヒーター

ここでいう電気ヒーターは、車両のバッテリーや外部電源(ポータブル電源など)を利用して動作するヒーター全般を指します。シガーソケットから給電する小型のファンヒーターや、車中泊などで使用されるセラミックヒーター、電気毛布などが含まれます。

車中泊で使用される電気ヒーターの例

画像:車中泊での利用に適した電気ヒーターの例。手軽に持ち運べるものが多いです。

これらの電気ヒーターは、手軽に導入できる点が魅力ですが、消費電力が大きいものも多く、車両のバッテリー上がりには注意が必要です。特にエンジンを停止した状態で使用する場合は、ポータブル電源の併用が推奨されます。セラミックヒーターは比較的安全性が高いとされていますが、使用する際には換気を怠らないなど、注意が必要です。

シートヒーター・ハンドルヒーター

最近の車両では、シートやハンドルに内蔵された電熱線によって直接体を温めるシートヒーターやハンドルヒーターも普及しています。これらは空気を温めるのではなく、乗員が直接触れる部分を温めるため、素早く暖かさを感じられるのが特徴です。車室全体を暖める能力はありませんが、体感温度を上げる効果が高く、燃費への影響も比較的少ないため、補助的な暖房として非常に有効です。


自動車のヒーターの種類と特徴 まとめ

自動車に搭載されるヒーターの種類は、車両のタイプや用途によって多岐にわたります。それぞれのヒーターには異なる仕組みと特徴があります。以下の表に主要なヒーターの種類とその特徴をまとめました。

ヒーターの種類 仕組み 主な熱源 主な搭載車両 特徴
水冷式ヒーター エンジンの冷却水の熱をヒーターコアで空気と熱交換し、温風を作る エンジンの排熱 ガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車(エンジン稼働時) エネルギー効率が高い(排熱利用)、エンジンが温まらないと効果が低い
PTCヒーター PTC素子に電気を通して熱を発生させ、空気を温める バッテリーからの電気エネルギー 電気自動車、プラグインハイブリッド車、寒冷地仕様車(補助) 立ち上がりが早い、消費電力が大きい(航続距離に影響)
ヒートポンプ 冷媒を利用して外気から熱を吸収し、圧縮して温度を上げ車内を暖める 外気の熱 + バッテリーからの電気エネルギー(圧縮機) 電気自動車、プラグインハイブリッド車 消費電力が少ない、外気温が低いと能力が低下する場合がある
燃焼式ヒーター(FFヒーター) 車両の燃料を燃焼させて熱を発生させ、温風を作る 車両の燃料(ガソリン、軽油) キャンピングカー、車中泊車両、寒冷地向け車両(オプション) エンジン停止時も使用可能、強力な暖房能力、排ガス処理が必要
電気ヒーター(携帯用など) 電気エネルギーを熱に変換して空気を温める バッテリー、外部電源(ポータブル電源)、シガーソケット 後付けで様々な車両に搭載可能 手軽に導入可能、消費電力に注意が必要、補助的な用途が多い
シートヒーター/ハンドルヒーター 内蔵された電熱線でシートやハンドルを直接温める バッテリーからの電気エネルギー 多くの車両に装備(グレードによる) 体感温度向上効果が高い、燃費への影響が比較的少ない

このように、自動車のヒーターシステムは、車両の進化や用途に応じて様々な方式が採用されています。それぞれの仕組みを理解することで、より快適で効率的な暖房利用が可能になります。


カーエアコンとの関係

自動車の暖房機能は、一般的にカーエアコンの操作パネルの一部として統合されていますが、その仕組みは冷房とは根本的に異なります。冷房は、冷媒を圧縮・気化させるサイクルを利用して空気を冷却・除湿するもので、このサイクルを動かすためにコンプレッサーが稼働し、エンジンの動力や電気エネルギーを消費します。

一方、内燃機関車の暖房はエンジンの排熱を利用するため、基本的にコンプレッサーを動かす必要がありません。そのため、暖房使用時にA/C(エアコンディショナー)ボタンをオフにしていても暖房は機能しますし、A/Cをオフにすることで燃費への影響をさらに抑えることができます。A/Cボタンは主に冷房や除湿に関わる機能であると理解しておくと良いでしょう。

車用ファンヒーターとエアコン操作パネルのイメージ

画像:車載ファンヒーターの例。一般的なカーエアコンの操作パネルと組み合わせて使用されることがあります。

ただし、電動車のヒートポンプ式暖房の場合は、冷媒サイクルを利用するためコンプレッサーが動作します。この点において、冷房システムとの関連性が深いと言えます。


FAQ:自動車のヒーターに関する疑問

車の暖房は燃費に影響しますか?

内燃機関車の場合、暖房はエンジンの排熱を利用するため、基本的には燃費への直接的な影響は小さいとされています。ただし、暖房のためにエンジンを暖機運転する時間が増えたり、ブロワーファンを強く回すことでオルタネーター(発電機)への負荷が増えたりすることで、間接的に燃費に影響を与える可能性はあります。特に寒い朝などは、エンジンが十分に温まるまでは暖房の効果が出にくいため、水温計が安定してから使用を開始するとより効率的です。一方、電気自動車やプラグインハイブリッド車のPTCヒーターやヒートポンプは電気エネルギーを消費するため、航続距離に影響を与えます。

暖房時にA/Cボタンはオンにするべきですか?

内燃機関車の場合、暖房時には基本的にA/Cボタンをオフにして問題ありません。A/Cボタンは冷房や除湿機能をオンにするためのものであり、暖房の熱源とは異なります。A/Cをオンにするとコンプレッサーが作動し、燃費が悪化する可能性があります。ただし、窓の曇りを取りたい場合など、除湿機能を同時に利用したい場合はA/Cをオンにする必要があります。電動車のヒートポンプ式暖房の場合は、システムによってはA/Cボタンの操作が暖房にも関わる場合がありますので、取扱説明書をご確認ください。

ヒーターの効きが悪いのですが、原因は何が考えられますか?

ヒーターの効きが悪い場合、いくつかの原因が考えられます。内燃機関車の場合は、まずエンジンの水温が十分に上がっているか確認してください。水温が低いとヒーターも十分に暖かくなりません。また、冷却水の量が不足していたり、冷却系統内にエアが噛んでいたりする場合もヒーターの効きが悪くなることがあります。さらに、ヒーターコアの詰まりや、温度調節を行うバルブの不具合、ブロワーファンの故障なども原因として挙げられます。電動車の場合は、ヒーターシステム自体の不具合やバッテリーの状態などが影響する可能性があります。異常を感じた場合は、専門の整備工場で見てもらうことをお勧めします。


参照元


Last updated April 22, 2025
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