ユーザー様が計画されている、Instagramのストーリー風モックアップを用いた「探索型タスク方式」による実験は、現代のデジタル環境におけるユーザー行動と広告効果を理解する上で非常に革新的かつ意義深いアプローチです。特に、自由なスクロール行動の許容、視線追跡技術の導入、「いいね!」という能動的エンゲージメントの記録、そして実験後のアンケートによる広告効果(購買意欲)の測定という組み合わせは、ユーザーの無意識的な注意と意識的な評価の両側面からデータを収集し、リッチな知見を引き出す大きな可能性を秘めています。このような複合的な実験デザインを計画し実施する際に役立つ、2020年以降に発表された関連性の高い先行研究について、以下に詳細を解説いたします。
ご提案の実験は、複数の研究領域が交差する学際的なものです。以下に、主要な関連領域と、それぞれの領域でどのような知見が蓄積されているかを解説します。
Instagramは、その視覚的特性から、ユーザーの行動や広告との関わり方に独自の特徴があります。
Instagramユーザーは、高品質な画像や動画コンテンツに日常的に触れており、特にファッションやライフスタイル関連の情報を積極的に探索する傾向があります。ブランドが発信するコンテンツに対してもエンゲージメントが高く、プラットフォーム上でのブランドとのコミュニケーションを肯定的に捉えているユーザーが多いことが報告されています。ご実験のモックアップにおいて、一般的な投稿の質や内容を実際のInstagram利用体験に近づけることは、参加者の自然な行動を引き出す上で重要です。
インフルエンサーによる投稿や、ブランドが直接発信する広告コンテンツ(例:「PR」「広告」といったラベルが付与されたもの)に対するユーザーの認識や態度は、広告効果を左右する重要な要素です。先行研究では、広告であることを示すラベルやブランドタグへの視覚的注意が、広告の識別やその後の評価にどのように影響するかが検証されています。ご実験で表示する広告の種類や、それが広告であることの明示性は、参加者の視線パターンや「いいね!」行動、購買意欲に影響を与える可能性があります。
Instagramストーリーは、その一時性やインタラクティブな機能(アンケート、クイズ、スワイプアップなど)により、従来のフィード投稿とは異なるユーザー体験を提供します。ストーリー形式の広告は、ユーザーに実用的価値(情報提供)と快楽的価値(楽しさ)の両方を提供しやすいとされています。ご実験のモックアップがストーリー形式であることは、このフォーマット特有のユーザー行動や広告効果を捉える上で有利です。広告の「動き」のバリエーションは、ストーリーの動的な特性と関連付けて分析できるでしょう。
Instagramストーリー形式の広告モックアップのイメージ。実験ではこのようなインターフェースが想定されます。
アイトラッキング技術は、ユーザーが画面上のどこを、どのくらいの時間見ていたかを客観的に記録し、広告の視認性や注目度を評価するための強力なツールです。
多くの研究で、ユーザーが広告内のどの要素(例:ブランドロゴ、商品画像、キャッチコピー、価格表示、広告ラベル)に注意を向けるかが分析されています。広告のサイズや動きといった視覚的特徴が、これらの要素への注意を引きつける度合いや順序にどう影響するかを、視線固定時間や視線移動パターン(スキャンパス)といった指標で評価できます。ご実験における広告の4種類のバリエーション(画像サイズ、動き)は、これらの指標に差を生む可能性があります。
広告全体の視覚的テーマ(例:商品中心か、人物中心か)やデザイン(例:色使い、レイアウト、一人称視点か三人称視点か)が、ユーザーの視覚的注意やブランドに対する態度、記憶に影響を与えることがアイトラッキング研究で示されています。ご実験で用いる「一般的な投稿」と「広告」のデザインスタイルや内容の一貫性、あるいは対比が、広告への注意の向けられ方に影響するかもしれません。
ユーザーが投稿を広告として正しく認識できるか、またその認識プロセスにおいてどの視覚的情報(例:「広告」ラベル、"Paid partnership"タグ)を手がかりにしているかは、広告効果研究における重要なテーマです。アイトラッキングは、これらの手がかりへの視線注視を捉え、広告認識のメカニズムを解明するのに役立ちます。自由スクロール環境で次々とコンテンツが表示される中で、広告がどの程度効果的に認識されるかを評価できます。
ソーシャルメディアにおける自由なスクロール行動は、ユーザーの情報接触パターンや認知プロセスに特有の影響を与えます。
ユーザーがコンテンツを自由にスクロールできる環境では、個々の情報への注意は断片的になりがちです。アイトラッキング研究では、ウェブページなどでユーザーの注意が「F字型」に分布する傾向や、ページの折り返し(above the fold)より上の情報に多くの注意が向けられることが知られています。Instagramストーリーのような縦型スクロールにおいても、どの位置に表示された広告が注目されやすいか、スクロール速度が広告の視認時間にどう影響するかは重要な分析ポイントです。
多くのソーシャルメディアで採用されている無限スクロールは、ユーザーをつなぎとめ、エンゲージメントを高める一方で、意図しない長時間の利用や情報過多を引き起こす可能性も指摘されています。「探索型タスク」として自由なスクロールを許容するご実験では、参加者がどの程度の時間や量のコンテンツを閲覧するかが広告接触の機会を左右します。
スマートフォンなどの小さな画面でのスクロールによる情報閲覧は、特に視覚情報の符号化や長期記憶の保持に影響を与える可能性が研究されています。ご実験で表示する広告の視覚的特徴(サイズや動き)が、スクロールという動的な閲覧状況下で、どの程度記憶に残りやすいか(そして後のアンケートでの購買意欲に繋がるか)は興味深い論点です。
ご提案の実験デザインは、複数のデータ収集手法を組み合わせることで、広告効果を多角的に評価しようとするものです。以下のレーダーチャートは、ご提案の実験デザインが持つ可能性を、他の一般的な研究アプローチと比較して視覚化したものです。各軸は研究アプローチを評価する上での重要な側面を示しており、中心からの距離が大きいほど、その側面において優れていることを表します(最小値1、最大値10)。
このチャートが示すように、ご提案の実験デザインは、特に実際の利用状況に近い環境(生態学的妥当性)での広告インタラクション分析やスクロール行動分析に強みがあり、視線追跡の精度や行動データ・主観評価の収集もバランス良く組み合わせている点が特徴です。これにより、より現実に即したユーザーの反応を捉えることが期待できます。
ご提案の実験を構成する要素と、それに関連する主要な研究テーマの構造をマインドマップで示します。これにより、実験の各部分がどのような学術的背景と結びついているかを視覚的に理解できます。
このマインドマップは、モックアップの設計、ユーザー行動の観察、データ収集手法の選択、そしてそれらを支える学術的背景との関連性を示しています。ご実験の新規性は、これらの要素をInstagramストーリーという特定の文脈で統合的に扱おうとしている点にあると言えるでしょう。
以下に、ご提案の実験デザインに直接的に関連し、2020年以降に発表された主要な研究論文をいくつか紹介します。これらの論文は、実験計画の精緻化、仮説設定、データ分析手法の選択において非常に参考になるでしょう。
論文タイトル・著者・発表年 | 主な内容とご実験への関連性 |
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Understanding which cues people use to identify influencer marketing on Instagram: an eye tracking study and experiment Boerman, S. C., van Reijmersdal, E. A., & Neijens, P. C. (2021). Journal of Advertising |
Instagramユーザーがインフルエンサーマーケティング(広告)を識別する際にどの視覚的手がかり(例:#ad, Paid partnershipラベル)に注目するかをアイトラッキングで調査。67名の参加者による実験。広告の視覚的特徴(本実験ではサイズや動き)が注意や識別にどう影響するかを検討する上で、視線データの取得方法や分析の参考になります。広告認識とアンケートによる評価の組み合わせも共通点です。 |
Show products or show people: an eye-tracking study of visual branding strategy on Instagram Zhou, L., & Xue, F. (2021). Journal of Research in Interactive Marketing |
Instagram上のブランド投稿において、視覚的テーマ(商品中心か人物中心か)や視点(一人称か三人称か)がユーザーの視線パターン、ブランド態度、認識に与える影響をアイトラッキングで検証。4x2の実験デザイン。広告画像の視覚的要素(本実験ではサイズや動き)がユーザーの注意や評価にどう作用するかを分析する上で、AOI(Area of Interest)設定や視線指標の選定に役立ちます。 |
The role of interactivity from Instagram advertisements in shaping perceived value and behavioral intention Sutanto, J., & Luo, X. R. (2022). Telematics and Informatics |
Instagramストーリー広告におけるインタラクティビティ(タップ、スワイプなど)が、ユーザーの知覚価値(実用的・快楽的)や行動意図(購買意図など)に与える影響を実験で検証。ストーリー形式のモックアップを使用する本実験と親和性が高く、「いいね!」行動や広告の動きといったインタラクティブな要素がユーザー評価にどう繋がるかの示唆を得られます。 |
The effects of viewing by scrolling on a small screen on long-term visual memory Liu, T., Liu, S., & Liu, R. (2023). Frontiers in Psychology |
スマートフォンなどの小さな画面でスクロールしながら画像を閲覧することが、長期的な視覚記憶の符号化と保持にどのような影響を与えるかを調査。自由スクロール環境下で広告に接触する本実験において、広告の視覚的特徴(サイズや動き)が記憶されやすさ(ひいてはアンケートでの購買意欲)にどう関わるかを考察する上で理論的背景を提供します。 |
Scrolling and Attention Nielsen Norman Group (常時更新、2020年以降の知見も含む) |
ウェブサイトやアプリケーションにおけるユーザーのスクロール行動と注意の関連性に関する多数の実証的研究や考察を提供。特に、ユーザーがどのようにコンテンツをスキャンし、どの情報に注目しやすいか、無限スクロールがUXに与える影響など、本実験の「自由スクロール」という条件設定におけるユーザー行動を理解する上で基礎的な知見となります。 |
Eye tracking cues in Instagram advertising: Specifically 'Paid partnership' labels and brand tags Marengo, M., Gorry, C., & Gaber, D. (2021). (Conference paper/ResearchGate pre-print, related to Boerman et al.'s work) |
Instagram広告における「Paid partnership」ラベルやブランドタグといった開示情報が、ユーザーの視線行動や広告認識にどのように影響するかをアイトラッキングで詳細に分析。広告と非広告コンテンツが混在する本実験において、広告要素への注視パターンを分析する際の比較対象として参考になります。 |
アイトラッキング実験の典型的なセットアップ。参加者はディスプレイを見ながらタスクを行い、その際の視線が記録されます。
以下の動画は、アイトラッキング技術プロバイダーであるRealEye社が、Instagramフィードのようなソーシャルメディアコンテンツのテストにアイトラッキングをどのように活用できるかを示したデモンストレーションです。実際のユーザーがどのようにフィードを閲覧し、どの要素に注目するのかを可視化する様子が紹介されており、ご提案の実験における視線データ活用のイメージを掴むのに役立ちます。特に、ヒートマップやゲイズプロットといった分析手法が、広告要素への注意を評価する上で有効であることが示唆されています。
この動画で紹介されているように、アイトラッキングを用いることで、ユーザーが無意識的にどこに注目しているのか、広告は見られているのか、それとも無視されているのかといった点を客観的なデータに基づいて評価できます。ご実験で異なるサイズや動きの広告を比較する際に、このような分析アプローチが有効となるでしょう。
本件に関連して、さらに深い洞察を得るために以下の関連クエリでの情報探索をお勧めします。
本回答を作成するにあたり参照した、関連性の高い情報源(主に2020年以降)は以下の通りです。