IT部門、あるいは情報システム部門(情シス)は、現代の企業活動において不可欠な存在です。その業務は単なるパソコンの修理や設定にとどまらず、企業の経営戦略と深く結びつき、事業の成長を支える基盤となっています。ここでは、IT部門が担う多岐にわたる業務内容を、Excelで管理・可視化することを想定し、包括的に整理・解説します。
IT部門は、企業の「神経系統」に例えられます。社内外の情報を円滑に流通させ、業務プロセスを効率化し、データを活用して意思決定を支援するなど、組織全体の活動を支える重要な役割を担っています。近年では、単なるコストセンターではなく、ビジネス価値を創出するプロフィットセンターとしての期待も高まっています。
企業の神経系統として機能するITネットワーク
従来のIT部門は、社内システムの安定稼働やインフラ管理といった「守りのIT」が中心でした。しかし、DXの潮流を受け、最新技術を活用して業務改革や新規事業創出を主導する「攻めのIT」へのシフトが求められています。これには、技術的な専門知識だけでなく、経営視点や変革推進能力が不可欠となります。
IT部門の業務は多岐にわたりますが、主なカテゴリーに分類することで全体像を把握しやすくなります。以下に代表的な業務カテゴリーとその内容を解説します。
企業の事業戦略に基づき、ITをどのように活用して経営目標を達成するかの長期的な計画(IT戦略)を策定します。市場動向や最新技術を調査・分析し、IT投資計画の立案、中長期的なシステム構想の策定などを行います。経営層との密な連携が不可欠です。
AI、IoT、クラウドなどのデジタル技術を活用し、既存のビジネスモデルや業務プロセス、組織文化を変革するための取り組みを企画・推進します。全社的な意識改革や、新しい働き方を実現するための啓蒙活動も重要な役割です。
業務効率化や新規サービス提供を目的とした社内システムの企画、設計、開発、テスト、導入を行います。パッケージソフトウェアの導入支援やカスタマイズ、既存システムの改修・機能追加も含まれます。開発プロジェクトにおいては、要件定義からリリースまでの全工程を管理します。
システム開発・プログラミング作業風景
稼働中のシステムが常に安定して利用できるよう、サーバーやアプリケーションの監視、定期的なメンテナンス、障害発生時の迅速な復旧対応、ソフトウェアのバージョンアップなどを行います。システムのパフォーマンスを最適化し、ユーザーが快適に利用できる環境を維持します。
社員が業務を行う上で必要不可欠なIT基盤(ネットワーク、サーバー、PC、複合機、電話など)の設計、構築、設定、運用、保守を行います。セキュリティを確保しつつ、快適で安定した通信環境やコンピューティング環境を提供することがミッションです。
AWS、Azure、GCPなどのクラウドサービスを活用したインフラ構築や移行、運用管理も重要な業務です。コスト最適化やスケーラビリティ、可用性の向上を目指します。
サイバー攻撃、ウイルス感染、不正アクセス、情報漏洩といった脅威から企業の重要な情報資産を守るための対策を講じます。セキュリティポリシーの策定・周知、脆弱性診断、アクセス権限管理、セキュリティ監視、インシデント発生時の対応などを行います。関連法規の遵守(コンプライアンス)も重要な責務です。
社員からのITに関する様々な問い合わせ(ソフトウェアの操作方法、PCの不具合、ネットワーク接続トラブルなど)に対応し、問題解決を支援します。迅速かつ丁寧な対応が求められ、社員の生産性維持に貢献します。FAQの整備やマニュアル作成、ITリテラシー向上のための研修なども行います。
日々の業務を支えるユーザーサポート
企業が保有するハードウェア(PC、サーバー、ネットワーク機器など)やソフトウェアライセンス、クラウドサービスの利用状況などを正確に把握・管理します。資産台帳の整備、ライセンス違反の防止、不要な資産の廃棄、コスト削減のための最適化提案などを行います。IT関連予算の策定・管理も担当します。
システム開発会社、インフラ構築業者、ソフトウェアベンダーなど、外部のIT関連企業との折衝、契約管理、委託業務の品質管理、納期管理を行います。適切なベンダーを選定し、良好な関係を築きながら、コストと品質のバランスを取ることが重要です。
企業内外に存在する膨大なデータを収集、整理、保管し、分析可能な状態にするための基盤(データウェアハウス、データレイクなど)を構築・運用します。BIツールなどを活用してデータを分析し、経営判断や業務改善に役立つインサイトを提供します。ExcelやAccessを用いたデータ集計・レポート作成支援も含まれます。
IT部門の多岐にわたる業務を効果的に管理し、関係者間で共有するためには、業務内容を一覧表形式で整理することが有効です。以下は、Excelでの作成を想定した業務一覧表の例です。これにより、各業務の担当者、優先度、進捗状況などを一元管理し、業務の抜け漏れ防止や効率的なリソース配分に役立てることができます。
業務カテゴリ | 主な業務内容 | 具体的なタスク例 | 重要ポイント・関連スキル |
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IT戦略・企画 | 経営戦略に基づくIT戦略の策定・推進、DX推進 | ・IT投資計画策定 ・中長期システム構想作成 ・新技術調査・導入検討 ・DX施策の企画・実行 |
経営戦略理解、企画力、分析力、変革推進力、新技術への知見、コミュニケーション能力 |
システム開発・導入 | 新規システムの企画・開発・導入、既存システムの改修 | ・要件定義、設計、開発、テスト ・パッケージ導入支援、カスタマイズ ・プロジェクト管理(進捗、課題、リスク) |
プログラミング、システム設計、データベース、テスト技法、プロジェクトマネジメント、業務知識 |
システム運用・保守 | 稼働中システムの安定稼働維持、障害対応 | ・サーバー、アプリ監視 ・定期メンテナンス、バックアップ ・障害切り分け、復旧対応 ・パフォーマンスチューニング |
OS、ミドルウェア、データベース知識、トラブルシューティング能力、監視ツール利用経験 |
ITインフラ管理 | 社内ネットワーク、サーバー、PC等の構築・保守運用 | ・ネットワーク機器設定・管理 ・サーバー構築・運用(オンプレ/クラウド) ・PCキッティング、管理 ・アカウント管理 |
ネットワーク(TCP/IP)、サーバーOS、仮想化技術、クラウド(AWS/Azure/GCP)、ハードウェア知識 |
情報セキュリティ管理 | 情報資産の保護、セキュリティ脅威への対策 | ・セキュリティポリシー策定・運用 ・脆弱性診断、対策 ・アクセス権限管理 ・ウイルス対策、不正侵入検知 ・インシデント対応、フォレンジック調査 |
セキュリティ全般知識、リスク管理、ネットワークセキュリティ、認証技術、暗号化技術、関連法規知識 |
ヘルプデスク・サポート | 社内からのIT関連問い合わせ対応、トラブル解決支援 | ・PC、ソフトウェア操作サポート ・ハードウェア故障対応 ・ネットワークトラブル対応 ・FAQ作成、マニュアル整備 |
コミュニケーション能力、IT全般基礎知識、問題解決能力、Officeソフト知識 |
IT資産管理 | ハードウェア、ソフトウェアライセンス等の管理 | ・IT資産台帳作成・更新 ・ソフトウェアライセンス管理 ・リース・レンタル契約管理 ・IT機器の棚卸、廃棄 |
資産管理知識、契約知識、Excelスキル |
ベンダー管理 | 外部ITベンダーとの折衝・管理 | ・ベンダー選定、評価 ・見積もり取得、価格交渉 ・契約締結・管理 ・委託業務の品質・納期管理 |
交渉力、契約知識、プロジェクト管理、コミュニケーション能力 |
データ管理・分析 | データ基盤構築・運用、データ分析・レポーティング | ・データベース管理 ・データ収集・加工・集計 ・BIツールを用いた可視化・分析 ・レポート作成 |
データベース知識(SQL)、データ分析スキル、Excel/Accessスキル、BIツール利用経験 |
プロジェクト管理 | IT関連プロジェクトの計画・実行・管理 | ・WBS作成、スケジュール管理 ・リソース調整、タスク割り当て ・課題管理、リスク管理 ・関係部署との調整、進捗報告 |
プロジェクトマネジメント手法(PMBOK等)、コミュニケーション能力、リーダーシップ、調整力 |
*注意: 上記は一般的な例であり、企業の規模、業種、組織体制によって業務内容や担当範囲は異なります。
IT部門の各業務は独立しているわけではなく、相互に連携し合っています。以下のマインドマップは、IT部門の主要な機能とその関連性を示しています。中心となる「IT部門」から各機能が枝分かれし、それぞれの機能がどのように繋がっているかを視覚的に理解するのに役立ちます。
この図のように、例えば「システム開発」は「IT戦略」に基づいて行われ、「システム運用」や「セキュリティ管理」と連携しながら進められます。また、「ヘルプデスク」は各システムのユーザーからのフィードバックを収集し、改善に繋げる役割も担います。
IT部門内の各機能は、求められるスキルセットや業務の特性が異なります。以下のレーダーチャートは、いくつかの主要なIT機能について、その特性を多角的に評価した一例です(評価は一般的な傾向に基づく目安です)。これにより、各機能の重点や求められる能力の違いを視覚的に把握できます。
例えば、「IT戦略・企画」はビジネス理解度や戦略的影響力が高く求められる一方、「ヘルプデスク」はコミュニケーション能力や緊急対応頻度が高い特性を持ちます。「システム開発」や「セキュリティ管理」は高い技術的専門性が要求されます。このように、各機能の特性を理解することは、人材育成や組織設計においても重要です。
デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれる現代において、IT部門の役割はかつてないほど重要になっています。単にシステムを管理するだけでなく、ITを活用してビジネスに変革をもたらす主体となることが期待されています。そのためには、経営層や事業部門との連携を強化し、ビジネス課題を深く理解した上で、最適なITソリューションを提案・実行していく必要があります。
以下の動画では、DX推進におけるIT部門と業務部門の連携の重要性について解説されています。現代のIT部門が直面する課題や、求められる役割の変化について理解を深めることができます。
DX推進におけるIT部門と業務部門の連携の重要性(出典: YouTube)
動画で語られているように、IT部門がサイロ化せず、業務部門と一体となってDXに取り組むことが成功の鍵となります。技術的な知見を提供するだけでなく、業務プロセスの見直しや新しい働き方の提案など、より広範な領域での貢献が求められています。
IT部門の主な役割は、企業のITインフラ(ネットワーク、サーバー、PCなど)の構築・保守運用、社内システムの開発・導入・保守、情報セキュリティの確保、ヘルプデスクによるユーザーサポート、IT資産管理、そして経営戦略に基づいたIT戦略の立案・実行など、多岐にわたります。企業の事業活動をITの側面から支え、効率化や競争力向上に貢献することがミッションです。
「守りのIT」とは、既存システムの安定稼働、セキュリティ対策、コンプライアンス遵守など、企業活動の基盤を守るためのIT活用を指します。一方、「攻めのIT」とは、ITを活用して売上向上、新規事業創出、業務改革などを実現し、企業の競争力を高めるための戦略的なIT活用を指します。近年のDX推進の流れの中で、「攻めのIT」の重要性が増しています。
求められるスキルは担当業務によって異なりますが、共通して重要なのは、サーバー、ネットワーク、セキュリティ、データベース、プログラミングなどの技術的な知識・スキルです。加えて、問題解決能力、プロジェクトマネジメント能力、ベンダーコントロール能力、そして経営層や他部署と円滑に連携するためのコミュニケーション能力やビジネス理解力も不可欠です。特にExcelスキルはデータ管理や分析、レポート作成など多くの場面で活用されます。
中小企業では、限られた人員(時には「一人情シス」)で上記のような幅広い業務をカバーする必要があります。そのため、インフラ管理やヘルプデスクなどの日常業務に加え、IT戦略の策定補助、システム導入の企画・実行、ベンダー管理、セキュリティ対策まで、多岐にわたる役割を担うことが多いです。外部サービスやアウトソーシングを効果的に活用することも重要なスキルとなります。